⑤対処するべき二つのバラツキ

 モノづくりでは、対処するべきバラツキは二つあると考えてください。一つ目は、きちんと作られているかを調べるためのバラツキ。生産現場における、いわゆる4M変動によって起る性能ばらつきです。QCやSQC手法を活用することで、材料や手順、生産条件が正しく管理されているかが分かります。二つ目は、きちんと機能するかというバラツキです。製品が出荷後、客先での使用条件によって性能が変化することを指します。耐久性がその代表例です。このバラツキへの対処法が品質工学です。QCやSQCでは評価できません。両者の役割分担を正しく理解することが必要です。

④技術情報の蓄積

 過去の実験結果や技術情報は、企業の財産として大切に保管されていると思いますが、

    実際の研究開発現場で活かされているかとなると、十分ではないというのが一般的では

    ないでしょうか。報告書や論文は、形式が統一されていても、結果に至る過程や仮説の

    立て方に個人差が出るので、文面だけでは理解できないことが多いのです。

 TMでは、機能定義から実験の進め方、結論を導き出す手順まで、すべて統一されている

 ので、TMを知っている技術者なら、誰が読んでも理解できます。つまり将来に利用価値

 のある技術情報として、蓄積が可能ということです。

③品質管理との違いは

 TMは品質管理(以下QC)とよく比較されます。どちらも、品質や機能のバラツキを、

 統計的な計算によって調査する点では同じですが、調べ方に違いがあります。QCでは

 バラツキを分布として見るのに対し、TMでは誤差因子の影響で見ます。

 この違いは、調査に必要なサンプル数に現れます。QCでは管理された工程で作られた

 多数のサンプルが必要ですが、TMは一つでも可能です。ただし、品質や機能に影響を

 及ぼす誤差因子の専門知識が必要となります。重要な誤差因子が把握できていれば、

 時間やコストをかけて多数のデータを取る必要はない、これがTMの基本です。逆に、

 誤差因子が不明な場合や、十分に管理された工程でのバラツキ調査にはQCが有効です。

 両者の特徴を理解して、上手に使い分ければよいでしょう。

②TMの数理

 SN比や感度の計算には、高度な数学や統計の理論がベースにあります。それらをわかり

 やすくまとめた文献として、「品質工学の数理」(日本規格協会 田口玄一)がありま

 すので、ぜひご一読ください。パソコンや計算ソフトの普及で、SN比や感度が簡単に

 計算できるようになりましたが、その背景にある理論を知っておくことは、実務上の

 様々な場面での応用が利く点で重要です。

①品質工学(TM)の全体像

 品質工学(TM)はわかりにくいと言われてい

 ますが、全体としては2つの分野で研究が進め

 られています。科学としてのTMには数理と田口

 哲学の研究があり、技術としては手法と様々な

 分野での実施検証の研究が進められています。

 得意な分野、興味のある研究から勉強すれば、

 理解が早いと思います。