⑤技術者は良いものしか作ろうとしないから良いものが作れない

 実はこれ、製品開発や技術開発に取り組む技術者へのアドバイスなんです。決して技術者を馬鹿にした発言ではありません。一生懸命になって良いものを作ろうとするあまり、全体が視野に入らなかったり、方向性を誤ったりする。実験では悪い結果を出すことで、逆に良い方向が明確になることもあります。成功への方向性を見誤らないためには、良い結果と悪い結果の両方を見て判断するべき、という教えです。ですから、直交表実験では制御因子の水準を大きく変化させて、誤差因子も積極的に取り入れ、良い結果と悪い結果が半々程度出てくるように心がけましょう。

④場数と経験

  田口先生が米国で指導されていたある時、受講生から次のような質問を受けた。

   「あなたが天才であることは分かるが、この分野の専門家でもないのに、なぜそのように適切

  な指導ができるのか?」それに対する先生の回答は、「場数(経験)です。」 というもの

  でした。技術はその領域によって、それぞれ専門性はあるものの、品質工学的な評価という

  切り口で見れば共通性があり、それに気づけば、その分野の専門家でなくても適切な対応が

  できる、ということです。その共通性が、基本機能です。

  たとえば、カメラ、成形機、電話機の基本機能は、「転写性」と呼ばれ、すべて同じ評価手法

  で機能性が判断できます。様々な事例に接することでレベルアップが図れます。

 

③味覚を定量的に測定する

 この事例は、東海地方にある味噌や醤油を製造する会社でのお話です。この分野では、専門家による官能評価が普通ですが、その会社の工夫に思わず、美味い、ではなく、上手い!と叫びました。人が感じる美味しさを、どうやって定量的に測定したのでしょうか。

 その会社では、試作した新商品(味噌)で料理を作りました。そして、その料理を学校や企業に無償で提供し、生徒や従業員に食べてもらうのです。ただし、食べ残しはすべて回収します。作った料理の重量を計測していれば、その差が食された量となり、美味しい時には回収量は少なく、まずい時には増えます。美味しいとか不味いという官能的な評価から、重量という定量値に置き換えられました。また、提供先として年代や職種の異なる場所を設定したり、調理方法や材料を変えることで、商品の販売に有効な情報も得られることでしょう。評価の工夫次第で、仕事の質がこんなに違ってきます。

②養豚の基本機能

  名古屋で開催されていた研究会で、先生

  から聞いたお話です。私が真剣にTMの

  勉強を始めて4か月、基本機能の考え方

  を掴めた、記念碑的な事例です。

  元々のテーマは、豚の排泄物処理につい

  て、コストをかけずに効率よく処理する

  システムの開発方法でした。

  が、先生の指導内容は、豚を効率よく育

  てる事。相談に来た人は理解できず、最

                        初は面食らったことでしょう。

豚が効率よく成長すれば、納期短縮、えさ代の節約、排泄物の減少など、すべての課題に効果が出ます。逆に、排泄物処理だけ取り組むと、その課題は解決しても、他の課題には何の効果も期待できず、下手をすればコストアップになりかねません。基本機能の改善こそが優先課題なのです。

①田口玄一先生との出会い

  田口先生(以下先生)との出会いは、

  中部品質管理協会主催の研究会でし

  た。パラメータ設計を実施したが、

  うまくゆかず、その解決方法を尋ねるべく、名古屋で開催されていた研究会に飛び入りで参加したのです。そのとき35歳、怖いもの知らずで飛び込んだ私を待っていたのは、「こんな事は、中学生でも知っていますよ」、という強烈な先生の一言。結局、その日は先生の指導内容が理解できずに、翌月に再指導を受けて、目から鱗が落ちまし

た。TMの特徴は、システムに要求される機能(働き)のとらえ方にあるのですが、それが中々難しい。技術の基本に帰り、原点に戻ってそのシステムを見つめてみれば、先生の言われたように、中学生でも知っている原理や現象に帰着することが多いものです。TMにおける機能定義を難しくしているのは、技術者の慢心と思い込みかもしれません。